ICPC

ICPC (International Classification of Primary Care)はプライマリ・ケア領域で臨床家が扱いやすく、有意義な統計解析を行いやすい分類としてWONCA (World Organization of National Colleges, Academies and Academic Associations of General Practitioners/Family Physicians)が提供するプライマリ・ケアのためのコード集です。

プライマリ・ケアは1950年代前半に生まれました。臓器別専門診療だけでは地域保健の改善は困難であるという考えのもとに住民の健康管理としてすべての健康問題を解決しようという診療システムです。プライマリ・ケアは住民が生まれてから死ぬまでの健康の経過を管理することを目指しています。さらに個人の健康管理から地域住民の健康管理へとその目的を広げました。このような目的を達成するためには症状や病態の推移、他の疾病の併発と言った疾病のライフサイクルを記録し、簡単に集計できるようにする必要があり、1987年にICPCとしてまとめ上げられました。ICPCの開発者には臓器専門診療用のICD9の開発と併任する者もいて、両者は密接な関連を持っており、ICPCはWHOが主管するICDを補完する関連分類と位置付けられています。そして1992年ICD10がリリースされたことから1996年ICPC2がリリースされました。

プライマリ・ケアの重要性にわが国で最も早く気付いたのは故重本洋定先生でした。重本先生はICPCの前身となるICHPPCの作成から関与され、ICPC、ICPC2とその開発にかかわられました。これらの翻訳をお手伝いするために私はICPCとかかわりを持つこととなり、WONCAのICPC委員も重本先生に続いた山田隆司先生から引き継がせていただきました。

ICPCは愁訴と症状、診断行為、投薬と治療、検査結果、書類作成、紹介、診断の7つの要素と、17臓器軸とからなる2軸構造の分類です。ICPC2までは診療現場でコンピュータを使うことは一般的でなかったため、コードをすべて暗記し、紙(カルテ)に記録し、容易に集計できることが大切な要件でした。このため臓器軸を表すアルファベット1文字と7要素の全項目を表す01から99までの数字でコードが作られました。ICPC2のリリースとほぼ同時に診療現場にPCが導入され、電子カルテが使えるようになりました。また1980年以降の急速な医学の進歩から超音波検査や内視鏡検査もGPが担当するようになり、それに合わせてICPC2よりもう少し詳細な疾病分類が必要となりました。ICPC2はヨーロッパ諸国だけでなく、開発途上国でも使われるようになっていたため、簡便さと詳細さの板挟みになりながら10年以上の長い激論の末、ようやく新たなコード体系が決まり2020年12月ICPC3がリリースされました。

プライマリ・ケア制度(GP制度とも言います)を導入した国の多くではICPC2を電子カルテに組み込み、診療が終わると直ちにコードを集計できるようになっています。この仕組みを使ってインフルエンザなどの罹患状況をリアルタイムに集計できるようになっていましたが、愁訴・症状を集計できるようにはなっていませんでした。またICPC2にはICD10とのリンクが整備されていましたが、コンピュータでの自動処理はできませんでした。ICPC3はICD10 およびICD11、あるいはICFとの自動処理を目指して開発されたものですから、あと2年早くリリースできていたら、コロナの流行初期段階で発熱患者の増加や呼吸器感染症の増加をとらえることができて、もっと迅速な対応が可能であったはずです。ICPC3の開発にかかわってきた者の一人としてはとても残念です。一刻も早くICPC3が全世界で採用されてリアルタイムの保健情報活用が可能となってほしいものです。

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プライマリ・ケア連合学会で使用したスライドです。
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ICPC3について.pptx
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